Artist's commentary
【PFLS】休息の釘【謳華祭】
「・・・・・・貴方、何故ここに居るのですか?」
「士長殿の命にて派遣されました。今は一介の給仕。どうぞお気になさらず」
「見張りのつもりですか・・・?ならば士長には『心配など無用』とお伝え下さい。仕事はキチンとこなします」
「見張りは見張りなのですがね。我々が受けた命は少し違うのですよ」
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
謳華祭はつつがなく続いている。ある程度の人とも知り合う事が出来ただろう。だが仕事はまだまだここからだ
ジネットは少し息をつく為に広場の端に寄る。そこで何気なくあたりを見回していると、なにやら見覚えのある少女がこちらをチラチラと見ながら歩いていった
あれは最近入団した者の一人ではなかったか、確か名前は・・・セシリアといったはずだ
何故ここに居るのだろうか。ドレス姿ならともかく、彼女は女給の格好をしていた
少々不審に思ったが、今の自分には瑣末な事だ。足りない人手を補う為に誰かが手配したのだろうと思う事にした。だが、どうせなら自分を通して欲しかった。そうすれば交渉の種にでもなったのに
そういえば、彼女が居るのなら従者の男性も居るはずだが姿が見当たらない。彼女達は個別に行動する事がほとんど無かった。
おおかた裏で力仕事でも任されているか、働く彼女を陰から見守っているのだろうとぼんやり考えていたその時
「ご婦人。お飲み物をどうぞ」
「っ」
先ほどまで影も気配もなかった所から突然声をかけられ、ジネットは思わず差し出されたグラスを受け取ってしまった
声の主はセシリアの従者だった。給仕の格好はしているが顔の半分を仮面で覆い、腰には剣を提げている。とてもまともな給仕には見えない
「エーベルト殿」
「殿など不要ですよ。それよりジネット様、舞踏会は楽しんでおられますかな?」
「貴方こそわざとらしい敬称は不要です。えぇ、ある程度の人脈は期待できそうです」
その言葉を聞いた途端彼は露骨に呆れたような顔をした。喧嘩を売っているのか
仕事については一切を任せてくれれば問題は無い。彼にそう言ったが、二人がこの舞踏会に派遣されたのは自分がちゃんと休息としてパーティーを楽しんでいるのかどうかを確認するためであると言う
「士長殿はこの舞踏会で貴方がきちんと骨を休めて、今後の仕事を問題なく進めて貰うために計らったのですよ」
「なんですって?」
「そう言い付けたら、貴方の反応が少々おかしかったため、釘刺し役として我々が派遣されたと言う訳です」
「そんな馬鹿な話がありますか!・・・私を休ませたいのなら、独房にでも閉じ込めて無理矢理休ませればいいんですよ!」
それを聞いたフィデリオは「いやいやまったく」と笑っていた。自分で言った事だが笑われると腹が立つ
「社交の場である事は間違いありませんから、止めはしませんがね。ですが、まだ仕事のつもりであるのでしたら、その考えは改めていただきたい。それでは休暇になりませんし、何よりこの場を楽しんでいる方々全員に失礼ですぞ」
「それは・・・」
「それでは、ごゆっくり」
会釈をし、フィデリオはそこで話を切り上げて周りの人々へ酒を勧めながら雑踏に溶け込んでいった
グラスの中で煌く水を見つめる。白のぶどう酒だろうか、顔を近づけると中から漂う芳醇な香りがジネットの鼻腔を刺激した
不本意ではあるが、休めと言う事ならば仕方が無い。自分の先走った思い違いであったと言うのはバツが悪い事この上ないがしかし、士長が自分の事を気遣ってくれたと言うのは素直に嬉しい事だった
香りを楽しんだ後、グラスを傾けてぶどう酒をそっと唇に湿らせる
あまり酔っている所を他人に見せたくはない。しかし今は大人しく釘に刺されてやろう
久しぶりに喉を通った酒は、鉄面皮と自負する自分の口角を容易く持ち上げた
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
参加させてもらっている企画
【謳華祭】(pixiv #74223571 »)
お酒大好きジムイン
(pixiv #74377192 »)
あとは雑用見守り組
(pixiv #74468852 »)