Artist's commentary
インソムニア
2013/10/2 01:11
僕は今夜も眠れない。地下室から聴こえてくるあの音。僕の部屋まで聴こえて来るはずのないあの音が今夜も僕の眠りを妨げる。あの日以来ずっと…。3年前、僕の家に1人の使用人がやって来た。領地にある村の貧家から召し上げられたその少女は名をテレーザといった。テレーザはとても清楚で美しくそして儚げだった。彼女は他の使用人ほど完璧に仕事をこなす事は出来なかったが、その仕草一つ一つに内面の優しさが滲み出ていた。彼女と居ると社交界で出会う婦人たち相手には感じることの出来ない暖かくて落ち着いた気持ちになれた。僕は彼女に恋をしたのだ。僕は父に頼んで身の回りの世話役にテレーザを当てさせ、何かと口実を作って彼女と色々な場所に出かけた。特に彼女が気に入ったのは博物館だった。彼女は非常に知的好奇心が強い。僕の家では使用人に一般教養を身に着けさせるため簡単な読み書きを教えているが、たった1年で一般的な本を読めるまでになっていた。そんな彼女を博物館の見たこともない品々は大いに満足させたのだろう。展示品を見ている彼女の眼は世界のどの宝石より輝いて見えた。日を追うごとに彼女が愛おしくなり、彼女もいつしか僕の事を慕ってくれるようになった。そして先週ついに月明かりの中、僕と彼女は唇を重ねた。身分の違いはあるが僕は必ず彼女を妻に迎えると決心した。その日は深夜になっても僕は眠れなかった。唇を重ね愛を確かめ合ったのだ、興奮するのも無理はない。酒はあまり飲める方じゃないが、祝福も兼ねてワインでも飲もう。使用人たちはもう眠っているので地下のワインセラーへ向かう。チャリッ…チャリッ…。ワインが置いてある部屋より奥の部屋から微かに鎖のような金属音がする。誰か居るのだろうか。侵入者の可能性もある。物置に置いてあった火かき棒を手に取り足音を殺して音のする部屋へ近付く。どうやら音は父が収集している骨董品を置いてある部屋から聴こえて来るようだ。いつも鉄の扉が閉まっているので僕は中へ入ったことがない。音を立てないよう慎重に扉を開ける。隙間から誰かが見える。父だ。普通なら胸を撫で下ろすところだろうが、僕は声を上げそうになった。父は何故か全裸で何かに向かって腰を振っていたからだ。あの厳格な父が…信じられない…。もう少し扉を開け父の正面にあるものを確認する。そこにあったのは…。そこに居たのは振り子のように揺れる僕の愛する人だった…。