Artist's commentary
漆黒の森
2013/5/3 08:08
近年、郊外で女性の行方不明者が急増していることを調べていた私はインターネット上でツラヌキ様と呼ばれる御神体を崇める謎の集団が関与しいるとの書き込みを発見した。普通なら考慮にも値しない戯言の類だが念のため友人の民俗学者に確認を取ったところ、驚いたことにその集団の発足は高度経済成長期以前で、戦後著しく減少した人口を視て地元の行く末を憂いた権力者の一族が人口を増やすため組織したものらしかった。組織名は不明だが活動内容の一端は文献に残っていて、男女が交流する場所を設けたり、懐妊の際に資金を援助したりしていたそうだ。しかし何か釈然としない。当時それだけ前衛的な事をすればもっと痕跡が残っていても良いはずだ。なのに交流の場の跡地すら明確でない。まるで故意に匂いを消し去ったような印象を受ける。あるいは性交を強いたのではないだろうか。私は早速この組織を追ってみることにした。…方々走り回って私はようやく一つの情報を得た。口伝えでしか残っていない民謡の中に男たちが宝を貰いに森へ入っていくという内容があったことだ。この森というのは山間部に広がる樹海を指していて、行方不明になった女性達が最後に目撃されたのがこの辺りに集中している。当然捜索隊は隅々まで探しているだろう。ただ迷い込んだというだけなら見つかっているはずだ。だが、ある程度の規模を持った組織が拉致の痕跡を隠蔽していたらどうだろうか。私は森へ潜入をすることを決めた。…装備を整え深夜の樹海に入る。今回に至るまでに私は現在の地権者の許可を得て何度か歩き回っている。そこで幾つか当たりを付けておいた。可能性としてまず民謡が伝えられている土地から徒歩で行ける場所であるということ、ある程度の建造物が建てられる空間があること、今も宗教めいたその集団が何らかの活動をしているとすればその建造物の跡地を神聖視して同じ場所を利用していることが考えられる。そして決行日を今日に定めた理由は行方不明が起こる周期と男性の生理周期が一致する日だからだ。二つ目の当たりポイントに差し掛かった時、人工的な灯りが見えた。急いで小型のカメラを回し近づく。茂みから開けた場所を覗き込んでみるが誰もいない。回り込んでみようと思った瞬間突然意識が暗転した…。「ツラヌキ様、ツラヌキ様、どうかお静まりください」謎の集団に捕えられた私は2柱のツラヌキ様を差し込まれ、その姿を撮影されていた…。