Artist's commentary
うちの子あかねちゃんを愛でて欲しい描いて欲しい紹介絵⑧/5
―――。
「……。」
「こ、これは…」
部屋の中で、慣れないデザインの下着をつまむように持ち上げる。
「…ちょ、ちょっと、攻め過ぎか…?」
そう呟きながら、目の前の下着を睨む。
普段ではまず着ないような女の子らしい服、面積の小さい下着…試着はしたけど、あたしに似合っているのかはかなり不安だ。
「……。」
あいつとそう言う関係だということは、気恥ずかしいだとかもあってみんなには秘密にしている。
そうなるとなかなか近場で頻繁にデートなんて出来ないし、学校でもただのクラスメイト、幼馴染としてしか話せていない。
だから、時々でも「彼女」としてあいつと一緒にいられる時間は、あたしにとってはいつも特別だ。
「…あいつ、可愛いって言ってくれるかな…」
そんな不安と期待を胸にベッドに広げた服に目をやる。
自信はないけど、自分で可愛いなと思ったものを選んだ。
バイトしてまで揃えた服、高かったんだぞ、褒めなかったら怒ってやる。
全く、デート前はいつもそわそわしてこんな感じだ。
「お前のせいだ、バーカ。」
頭に浮かぶアイツの笑顔に悪態をつく。
「誰の事かな?」
突然、ドアの前から声が聞こえる。
「!と、父さん、なんだよ急に!」
「急にも何もノックしようとしたらバカとか言われて父さん泣きそうだ、入るよ」
ドアを開けながら気持ちの悪い動きで泣き真似をする父親にため息をつく。
外ではかなり威厳のある様で振る舞っている癖に、家の中だとすぐこれだ。
「はぁ…ごめんって、なんでもない。で、何か用?」
「ああそうだ、三者面談の書類に判押したから、月曜に持っていきなさい。…ん?」
不意にあたしから視線を外して、買ってきた服に目をやる。
「…それはあかねが選んだのか?」
「あ、あぁ。明日ちょっと遊びに行くからさ。さっき買ってきたんだよ」
「そうか…いや、驚いたな。」
口ひげをなぞりながら、なんだか嬉しそうな表情をしてそう言う。
「? 何が…」
「いや、大したことはない。母さんもそういう服が好きだったから、つい懐かしくてね。」
「へえ…母さんが…。」
写真でだけしか顔を知らない母さんだけど、とても優しい人だったらしい。
「お前を産んですぐに亡くなったが、結婚前にはよくそういう服を着ていたものだ。」
目を細めてそう言う父さんは懐かしそうに服を見やる。
「お前も大きくなって母さんに似てきたが、そう言うところも似てくるものなんだな。大丈夫、きっと似合うさ、自信を持ちなさい。」
「…。」
不安が顔に出ていたのだろうか、父さんが励ましのような言葉を掛けてくる。
「そうだ、ちょっと待ってなさい、良いものを持ってこよう。」
父さんはそう言って足早に自室に戻っていった。
「…。」
あたしはどうも顔に出やすいみたいだ、両手で頬をぐにぐにとこねて平静な表情を作る。
――――。
「ほら、これを。」
戻ってきた父さんが、何かを手渡してくる。
「? これは…」
「母さんが気に入っていたチョーカーだ、古いものだが可愛らしいだろう?」
黒い革に猫のワンポイント、確かにあたしが好きになりそうなデザインだ。
「へえ…でも、大事な物なんじゃ?」
古いものだろうに綺麗なまま、きっと大切にしてきたんだろう。
「いいんだよ、父さんが持っているよりせっかくならお前が使った方が良いだろう」
「う、うん…。」
手にとって試しにつけてみる。
鏡に映る自分が少し大人に見える、チョーカーなんて初めてつけるけど悪くない。
「あぁ、やはりよく似合う。雰囲気も母さんにそっくりだな、もっと髪は長かったがね。」
後ろから肩に手を置いて嬉しそうに微笑む父さんに、鏡越しに控えめな笑みを返す。
「じゃあ明日はこれもつけて行くよ、ありがとう父さん。」
「ああ、楽しんで来なさい。」
そう言って両肩をポンと叩いてから父さんは自室に戻っていく。
「でもその下着は少々派手じゃないかなあ」
「!!!」
ドアを閉めながら、こちらに見てニヤリと笑う。
しまった、さっきからベッドに置いてたままッ…
「う、うるせえセクハラ親父!!そんなのあたしの勝手だろ!」
「はははは、○○君も派手なのは好みじゃないんじゃないかなあ?」
そう言って意地悪な顔でこちらと下着を交互に見やる。
「な…ッ、なんであいつの名前が出るんだよ!いいから出てけって!バカ!」
「はいはい、まあ明日は楽しんできなさい、父さん応援してるよ、早く孫…」
「出てけーーーーーーーッッ!!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ。
「はぁ、はぁ…全く、クソ親父が…」
肩で息をしながら、頬に手を当てる。
これは恥ずかしいとかじゃなくて、その、そう、怒ってるから熱いんだ、クソ親父。
なんとか誤魔化せた、はず。うん。
「………はぁ。」
落ち着いたら明日の不安がアホらしくなってしまった。
「…さっさと準備だけ済ませて宿題でもやろ…。」
そう呟いて、ぐったりとした気持ちで夜を迎えるのだった―――。
デートのあかねの衣装は「チョーカー以外あかねが悩みに悩んでバイトして買った服だった」でしたとさ。
チョーカーだけは母親のものだったようです。
かわいいって言ってもらえると良いね、あかね。