Artist's commentary
【PFLSアフター】紅玉への餞【謳華祭】
こちらの流れより
■黒の染み(https://www.pixiv.net/artworks/74436473)
■隻影の翡翠へ(https://www.pixiv.net/artworks/74705798)
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謳華の名に相応しい花々の香りが不意にそよぎ、ひときわ鮮明な香りが鼻腔を擽る。
気付けば傍らに戦友の姿があった。
白花を連ねた青白いドレスは陽光に青白く輝き、床にまで届くスカートのシルエットと相まってそれ自体が大輪の花のごとくであった。
そんな風に判断できるようになるまでの数瞬、目と心を奪われたのは事実だ。
戦場にあってさえ装いを乱したことがない彼女のドレス姿は新鮮だった。
初めてかも知れなかった。
いつもは手足を鋼でよろい、踊るように戦う彼女が、こうも動き辛い装いを好むとは思えなかった。
そこに如何程の配慮と迷いがあったろうか。
いつもの凛とした声が「お帰りなさい」と告げ、その紅い眼差しが仮面越しの右目に留まるまで、口をきけなかったのはまさに不覚であった。
「生きて帰れたのも卿と騎士崩れの助けがあればこそだ。借りを返さねばな」
そう言ってすこし笑い、視線をホールの賓客たちに向けて調子を取り戻す。
天井から差す陽光に紅い衣と青い角、そして緑の肌が照らし出され、彼らは楽団の曲にのせてくるくると回る。
「見事な雪解けだ。盟主が望み、あの方が守っていく世界でもある」
光の眩さに目を細めた。
「卿はやはりあの方の剣として生きていくのだろう」
息をゆっくりと吐き出し、背筋を正す。
「……俺は賜った剣をお返しするつもりだ」
紅い眼を瞬かせ、眉根を寄せた彼女の隙をつくようにその場に片膝を突く。
そのまま、絹に覆われた左手を取った。
「あの方は王の剣となられた。もはや島の玉座につかれることはない。
長らくお仕えしながら主の望みすら見抜けなかったこの盲目を恥じるが……」
「あの方を王と仰ぐことが俺の夢だった」
手袋越しの困惑を押さえ込むように手を握りしめ、問われる前に言葉を次いでいく。
「バルバラ、強く気高き我が戦友よ。
卿と肩を並べられたことは我が生涯の誇りとなろう」
「卿に幸あらんことを」
スカーフに留めた勲章を外し、彼女の細い手に絡め——そして、口付けを落とした。
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お借りしました
■黒鋼拳バルバラ(https://www.pixiv.net/artworks/73146595)
■謳華祭(https://www.pixiv.net/artworks/74223571)
■植物4種(https://www.pixiv.net/artworks/74143307)
■ルーグレフ(https://www.pixiv.net/artworks/73031101)
■企画元様 pixivファンタジア Last Saga(https://www.pixiv.net/artworks/72934234)※期間終了済