Artist's commentary
この上なく惨めに
https://www.pixiv.net/artworks/75090297 の続き。
帝国にいる大貴族の子息や令嬢の中にはその現実離れした異常ともいえる暮らしぶりから、
妄想をさも現実のように語る者が多いと聞いたことがある。
件の令嬢も例外ではなかったということだ。
無論、依頼を引き受ける際にその点を気にしていなかったわけではなかったが、
自覚なく演じられた彼女の狂言は完成度が高く、
私の個人的な感情も相まって悲劇的な舞台の幕が上がる結果となってしまった。
もっとも正気の令嬢が顛末を知れば豪華な絨毯の上で笑い転げる喜劇になりえるかもしれないが、
いずれにせよ男の顔を醜悪だと感じただけで殺したい願うようになるのだから令嬢が常軌を逸している事に変わりは無い。
あの日、嵐のような行為が終わった後あの男は放心状態にある私を置いて満足げに去って行った。
きっとあの男は私が狂言に踊らされたことを察したうえで殺意の代償を支払わせたのだ。
そう考えれば私に止めを刺さなかった理由にも納得がいく。
身に覚えのない罪で命を狙われたとしても騎士を殺めれば厄介な事になる。
目撃者は居なかったが男が演習後に部隊を離れ私が姿を消したとなれば少なからず嫌疑が及ぶだろう。
騎士団内での私闘は固く禁じられており、相手を殺害し尚且つ動機が不明瞭な場合など国外追放どころか死罪もありうる。
だから最初、男は私闘に及んだ私が解せなかったはずだ。
だが私に強力な後ろ盾があれば話は別だ。
名誉ある大貴族の令嬢の護衛に私が抜擢されたことは知っていただろう。
そして若い貴婦人特有の妄想癖。
私が男の度重なる無礼な言動や態度で剣を抜いた可能性も考えただろうが、
もしそうならもっと早くに行動を起こしていたと結論付けたのだろう。
置かれた状況から短時間でこちらの心理をも見通し利用する。
剣を使わなかったのも斬撃が私闘の痕跡として残るのを嫌ったからかもしれない。
思った以上に狡猾な男だ。
狂言の事実を知り酷く動揺していたが湯浴みをすることでようやく落ち着いて来た。
とはいえ…。
あの男の苛烈な攻めですっかり形の変わってしまった乳房を見下ろす。
軽率な行動の代償。
嘗ては結婚に淡い希望を持ってはいたが、今のこの体をいったい誰が愛してくれるというのだろう。
きっとどんな殿方も私の裸を見れば幻滅するに違いない。
垂れさがった乳房を手に取ると首筋が疼いた。
平静を取り戻した矢先にまた始まったようだ。
あの日以来、私は自らの女を持て余すようになってしまっていた。
股間に手が伸びるのを必死に堪える。
自分を慰めるのは一日一度だけと決めたのだ。
そうでもしないと歯止めが効かなくなる。
思ったそばから利き手が生き物のように太腿を這う。
己を律しもう一方の手で押さえつける。
だが次は制している方の手が代わりに股の間へ滑り込もうとする。
何度もかぶりを振り抗おうとするが、いつの間にか秘所を貪り始めた指先に喘ぎ声が上がる。
このままでは頭がおかしくなってしまう。
誰か…。
これまで見て来た男たちの顔が頭の中に浮かんでは消える。
上官、同僚、部下、他の騎士団の男、傭兵、貴族の子息、執事、商人、農民、役人、道化、剣闘士。
その誰もが私のみっともない姿に嫌悪の表情をしていた。
ただ一人を除いて…。
馬鹿な…それこそありえない話だ。
二日後。
首都から離れた郊外にある朽ちかけた厩舎の裏。
そこで私はあの男に抱いてもらっていた…。