Artist's commentary
坂上智代陵辱小説挿絵(+おまけ)
2017/5/10 20:49 CLIP STUDIO PAINT
月華守屋さん(user/4218514)と共同制作した「CLANNAD」の二次創作小説の挿絵です。
挿絵付き小説はこちら⇒novel/8155212
前回の共同制作(illust/59323725)ではライターさん側に主導していただいて制作を進めましたが、今回は絵師側がラフイメージを提示しながらそれを元にお互いでアイデアを練っていくという新しい共同作業を試みました
novel/8155212 commentary
【挿絵付】伝説蹂躙~試されたプライド~
2017/5/10 23:59「CLANNAD」より坂上智代リョナ凌辱小説です。
TARE活様(user/5520931)との共同制作となります。これまで私が考えた話に挿絵をつけていただいたり、私メインでプロットを考えてという制作方法でしたが、今回はTARE活様主導でラフイメージを描き起こしたものから話を練るという手法をさせていただきました。
とても有意義な時間を過ごすことができました。弟・鷹文の怪我の手術を間近に控え、智代は改めて姉としてしっかりと生きようと考えていた。しかし、過去に不良達の中へ刻みつけた伝説が彼女の未来の邪魔をする。
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(page 1 is just this cover page)
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『勇気を持つんだ』自然と口から言葉が漏れたのは、目の前で自分を見上げている顔にあまりにも大きな不安が浮かんでいたからだった。
車椅子に座り、入院生活の中で体力の無くなった弟は体力も心の力も足りていない。
自分にこれから施される手術にも希望を持てずにいた。
『鷹文。安心しろ。私がついてる。次の手術を受けるんだ』
『でも……』
『大丈夫』
語り掛ける言葉に根拠などない。
弟が理由を詳しく求めたならば説明などできるわけがない。
しかし、仮にそうだとしても、彼女は強気な姿勢は崩さない。
不安で押し潰されそうになっている弟の目の前に立つ自分は、どんな時でも負けずに凜々しくあらねばならない。
強くあらねばならない。
そうやって自らを戒めて、坂上智代は胸を張る。
『私は強い。そして、お前は私の弟なんだ、鷹文。坂上鷹文は、怪我なんかには、負けない』
弟である鷹文にも、姉がいかに説得力の無いことを言っているのか分かっているのだろう。
しかし、姉の力強い言葉を聞いていると頬が緩んで何も言い返すことはできない。
辛い現実を塗り替えることが出来るような気がしていたから。
鷹文はそれ以上、何も言わずに頷いた。
『……それじゃあな、鷹文。また来る』
『うん。ねぇちゃんも、きちんと高校生活送ってね』
『当たり前だろう? 私は優等生だからな』
智代の言葉に苦笑して、鷹文は車椅子を操作して自分の病室へと去って行った。後ろ姿をじっと見ていた智代はゆっくりと歩き始める。すぐにエレベーターホールヘと辿り着いて階下に向かうスイッチを押すと、両腕を組んで考える。
『鷹文にとって、誇れる姉でなければいけない。だから、高校生活も……』
鷹文から向けられる尊敬や慈愛のまなざしが智代の姿と行動を縛りつける。
だが、智代にとってはそれで問題なかった。
鷹文が向けてくる笑顔が嬉しくて、ずっと見てもらいたいと思う。
だからこそ、手術を無事に終えて自分の元に返ってきてほしい。
胸の奥に宿る強い思いがある限り、どんな辛いことでも耐えられると決意しているとエレベーターがやってきて、扉が開いた。
意図せず扉の前で仁王立ちしていた智代は、箱の中から現れた集団に呆気に取られていたがすぐに場所を譲った。
病院の少しくすんだ白い壁にもはっきりと対比する黒スーツの男達。
サングラスをかけているため瞳の動きははっきりとは見えなかったが、全員が智代を一瞥しつつ、エレベーターホールから離れて病室の方面へと向かっていった。
『……なんだ……?』
明らかに場にそぐわない集団を見て、智代は頭の回転が緩む。
しかし、エレベーターの扉が閉じる音がトリガーとなって慌てて体をエレベーター内に滑り込ませた。
動き出すエレベーターに身を委ね、背中を壁に付ける。
数字が一定の間隔で少なくなっていく中、智代は一瞬の違和感も徐々に虚空に消えていった。
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走って。走って。走り続けて。智代は徐々に人通りがなくなっていく通りを疾走していた。
長袖シャツの下にはブラジャーのみを付けているため、汗をかいてしまうとシャツへと滲んでいく。
しかし、シャツの色が深くなりつつあっても智代の足は鈍ることはない。
智代には何に変えても最優先にすべきことがあった。
(くそっ……あの時……あそこで私がもっと気をつけていれば……!!)
すれ違う人々が智代の放つ不穏な空気に反応して視線を送っている事には気づいているが、助けを求めるわけにはいかない。
電話から響く正体不明の低い声が脳内に再生されると智代の胸を締めつける。
『警察に知らせたら……分かってるだろうな……?』
男の重たい声は足を鈍らせたが、歯を食いしばって振り切る。
「はぁ……はぁ……私一人でなんとか……何とかするしかない……」
走り続けて息が切れて来た頃には、視界から明かりや人影が消え失せていた。
代わって現れるのは鉄柵に囲われた暗い建築現場だ。
(……見えた………!!)
住宅街を抜けた先にある殺伐とした巨大な建物――学校のなりそこない。
建設途中で計画が頓挫し、取り壊す費用も捻出されずに放置された学び舎。
校門には立ち入り禁止の立て看板があり、チェーンが幾重にも張られていたが、智代は呼吸を止めると加速して高く跳躍する。
夜空にスカートを翻し、穿いていたショーツが露わになるのも気にせずにチェーンの向こう側へと着地した。
「……ふぅううう……ふっ…………はぁ……はぁ……」
息を整えるのもほどほどにして、智代は再び駆け出す。
目指す場所は生徒を受け入れることのなかった校舎――ではなく隣接した体育館。
視界には既に体育館の入り口にたむろしている人影をおさめている。
自分が危険な場所に踏み入っていくのは覚悟の上。
しかし、今の智代の頭の中は弟の鷹文を助けることで占められていた。
「はっ! はっ! はっ! はっ……ふぅっ……!!」
智代は男達のすぐ近くで足を止めるとあえて呼吸を荒くして新しい空気を体内へと取り入れていく。心臓の鼓動が耳にうるさいくらい響き、男達が自分を見て笑う声すらもかき消したことで、熱くなっていた智代の頭は汗の流れが落ち着くと共に冷えていった。
「けっけっけっけ……来たなぁ! てめえが坂上智代だな!」
「おいおい。ボスが言った通りかよ。マジで、たった一人で乗り込んできやがったぜ!」
「ヒャハハハハッ! ムボーだな、ムボー!」
さんざん智代の姿を見て笑って、蔑む言葉を投げつける男達は前に出る。
いずれも漆黒と呼ぶにふさわしいスーツを身につけ、ネクタイをしっかりと首元から下げている男達は総勢十名。
集団の中から一人が前に出る。
髪の毛はスーツと同様に黒く、しかし他の男達と異なって肩口まで伸びている。容姿も他と比べると整っていて、道端でもう少しラフな格好をしていれば異性の目を十分引けるものだ。
しかし、長髪の男が向けてくる視線は、智代の体を舌でゆっくりじっくりと嬲り回してくるような気持ち悪さがあった。
近付いてきた男だけではなく、十対の瞳全てが、服から強調されている智代の乳房や、ニーソックスとスカートの間にある絶対領域。そしてスカートに包まれた部分までも視線を突きつけてくる。
視姦による不快さに智代は背中が粟立ったが、おくびにも出さずに告げた。
「鷹文はどこだ! 私に用があるなら小細工無しで直接、呼び出せばいいだろう!」
智代自身に呼び出される理由は分からない。しかし、相手はそんな智代の事情などかまうことなく、弟を誘拐してまで誘い出した。
分からないなりに呼び出された場所へ辿り着いたなら、憎むべき敵が目の前に現れる。
状況が整理されたことで智代の胸の内に青白い炎が灯った。
「まあまあ……落ち着けよ。ここは俺らがアジトにしてる場所なんだ……この時間に来るようなバカはいねえ。ゆっくりしていきな」
「けっけっけ……ボスはテメェの本気が見てみたいとさぁ」
「そうそう。伝説の不良。坂上智代の本気がよぉ……」
代表して前に出た男だけではなく、徐々に立ち位置を変えて智代を取り囲んでいく男達が言葉を連ねていく。
智代にとって振り返りたくない過去を、無遠慮にほじくり返していく男達の醜悪な笑みは止まらない。
「そりゃいいぜ。俺達にも見せてくれよ。JKの本気、って……ヤツをさあ!」
『ギャハハハハハハハッ!』
夜の空に響き渡る男達の笑い声。
しかし、学び舎となるはずだった敷地は周囲から隔絶されたかのよう。
下衆な男達は好き勝手に笑い続ける。
智代は両手を胸元へと勢いよく構えると、乳房が服の上からでも男達に理解できるほど揺れた。
「ヒッヒッヒ……確かにコイツはなかなか凄そうだ……俺達も本気にならなきゃなぁ」
長髪の男はにやついたまま前に出てくる。
智代から数歩離れたところで拳を握り、身構え――
「伝説の不良がどんな強――」
「はっ!」
――て攻撃に移る瞬間には背後へ蹴り飛ばされていた。
智代の頭一つ分も大きな体が軽々と宙を舞って、長髪男は地面に叩きつけられる。
顎と腹部と股間の三か所に智代の靴跡がついており、後ろに控えていた男達は倒れた長髪男を見て初めて、三発喰らってダウンしたことを知ることになった。
「ど、どういうことだ……」
「一発しか蹴りの音が鳴らなかったぞ……?」
視覚と聴覚の差異に困惑する男達にかまわず、智代は自分が蹴り倒した長髪男の顔面を踏みつける。足裏と地面に挟まれた頭部から伝わる感触に智代は顔をしかめたが、長髪男が完全に沈黙したことを確認すると前に出た。
「すまない。今、気が立っている……やりすぎるかもしれない。でも、正当防衛だ」
「……おもしれえ!」
二人目が突進してきたまま拳を振り上げる。勢いをつけてストレートで突き出された拳はしかし、智代の姿を捉えない。体格差を利用して一瞬で懐に飛び込んだ智代は右足を振り抜く。連続して鳩尾を蹴り込む音が鳴り響き、五発目がめり込んだと同時に男は智代から逆方向へと飛んでいった。
「このアマあぁあああ!」
「そんなスカートだと中が見えちまうぞ!」
続けて三人目と四人目は手にした木刀で智代を殴ろうとする。
練度は低いが、智代への挑発と攻撃の連携を同時にこなしていて、時間差で木刀が智代の体を襲った。
しかし、智代は振り下ろされた刀身を、体を横にして躱す。
後ろに移動させた右足を使って後ろ回し蹴りを敵のこめかみに叩き込み、回転を止めないままもう一人の喉元へと足裏をめり込ませる。
呼吸が止まって苦しむ四人目の頭に踵落としを喰らわせると、前のめりになって痙攣し始めた。
「どうした? 私のスカートの中を見たいんじゃないのか?」
「く……てめぇ……」
わざとスカートの端を少しだけ摘まみ上げる智代。
ニーソックスと共に構成される乙女の領域は男達の視線を惹きつけていくが、その中を見ることの困難さを男達はこれまでの智代の動きから考えたのか、顔を歪ませていた。
「お、お前……分かってるのか? 俺達を敵に回すってことは、あのお方を敵にまわ……」
「知ったことか!」
「ぶへぇああ!?」
前方に飛び上がった智代は、飛び蹴りを五人目の顔面にめり込ませて吹き飛ばす。
動きを止めぬままに残る五人が作っている円の中央へ着地した智代は、しゃがみこんで周囲に対して足払いをかけた。
三人は同時に倒れて、頭を打って痛みに悶える。地べたを這う男達に慈悲をかけることもなく、智代は顎を順番に蹴り上げて沈黙させる。
残ったのは足払いを躱した二人。
最初は仲間達と共に智代を卑猥な目で見ていたが、今の瞳は怯えで震えていた。
「て、てめえ……」
「大人しく鷹文を返せ! そうしたら、一撃ですませてやる。そうでなければ――」
智代は言葉を終えぬ間にたった一歩でトップスピードに乗ると、九人目の懐に入る。
攻撃が来る前に右足が振り抜かれ、男の体が宙に浮かんだ。
「はぁあああああああああああああああ!!」
「オゴゴゴゴゴゴオゴゴゴゴガッガガガが……」
これまでは一撃で相手を吹き飛ばしてきた智代。
しかし、今は男の体を中空に蹴り上げて身動きが出来ない状態にした後に、連続して腹部や胸元に蹴りを撃ち込んでいた。
「ハアアアアアアアアアアアアアアア……たあああっ!」
勢いよく吼えた智代は右足を振りかぶると、重力に従って落ちてきた男の顎を蹴り上げた。男の頭は衝撃で後方へと向かい、体まで一回転すると地面に俯せで落ちる。
鈍い音と大量に舞う土煙。
仲間がボロボロにされた光景を見ていた最後の一人は、懐からナイフを取り出して、煙の先に立つ智代へと刃を向けた。
「人に刃物を向けるな!」
倒れ伏す男の背中を蹴って飛ぶように前に出た智代は、左足で相手の手首を蹴る。
痛みに顔を歪めて落としたナイフが地面につく前に、智代の蹴りが鳩尾に入った。
今度は渾身の力を込めた一撃であり、体格差など関係なく背後へと吹き飛ばしていた。
「オゴハアアアッ――」
胃の内容物をまき散らしながら地面を転がった男には目もくれず、智代は周囲を見回す。
最初に因縁をつけてきた黒スーツ達は全員倒れていた。残るのは智代を呼び出した張本人も含めて、体育館の中だろう。
智代による蹂躙劇が始まる前には消えていた明かりが灯っているのが、窓から見えた。
(……明らかに誘われてる……でも……きっと鷹文はあそこにいる)
倒れている男達に聞く必要も無く、あからさまな誘導だった。
智代はもう一度だけ周囲を見て、男達が無抵抗であること確認すると体育館の入り口へと向かう。
扉の目の前に立った時点で、智代は呼吸を整えた。
「ふぅ……ふぅ……ふーっ! よし……」
全速力で体育館前へと駆けつけた後に男十人との闘い。休む間もなかったが、智代にはさして影響はない。
切れていた息も整って体も暖まり、自分の力を十分に引き出せると確信する。
「……開けるぞ!」
扉の前に立った智代は一度内部に向けて吼え、ノータイムで扉を開けて中へと踏み込む。周囲を十分に警戒していたため、中に潜む男達が向けてくる殺気も受け止めて弾き返していた。
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「さあ、望み通り来てやったぞ! 鷹文を解放しろ!」
智代が叫びを向けたのは視界を埋める黒いスーツ達だ。
ざっと三十人を超える男達は同じ服装をしているため、智代には細かい顔の判別は無理だった。個性をかき消し、名前のない兵隊とでも言わんばかりに誰もが智代の言葉を聞いているようで聞いていない。
そんな無個性達の中で、智代の視線は自然と一点に引き寄せられた。
「お前が坂上智代、か。想像していたよりも、華奢だな」
男は何かに腰掛けていたようで、立ち上がると智代の頭一つ以上の上背を見せつけてきた。
肩幅も智代の二倍。体重差なら三倍以上はありそうだと智代は瞬時に読み取った。
スキンヘッドであることも合わせて、一つの大きな岩のように見える。
男が発してくる威圧感は他の男達を完全に飲み込んでいて、前に出て智代の傍に近付くだけで彼女から残る者達の存在感を消していた。
「わざわざこんなところに呼び出したんだ。まずは名乗るのが礼儀だろう?」
智代は腕を組み、男の迫力に真っ向から対峙する。
スキンヘッドはわずかに口元を緩めてから呟いた。
「……威勢がいいな……鰐淵、だ……」
剃られた眉毛の下にある鋭く細められた目から見える黒目からの眼光は、智代の四肢を貫くように強い。
口元は左側だけつり上がっており、僅かに笑っているものの、瞳は笑っていない。
黒いスーツは包み込んでいる筋肉によって内側からはち切れそうになっていた。
それでもネクタイはちゃんとしているため、智代は見ているだけで息苦しくなった。
「お前が……こいつらのリーダーだな。いったいどうして私を狙う?」
男の力を感じてもなお、智代は怯まない。
強敵がいくら立ち塞がっても臆さず挑み、最後には勝利する。
それが鷹文の姉、坂上智代のあるべき姿。
たとえ、これまで倒してきた男達とは実力が桁違いだという現実を理解しても、智代の脳裏に敗北のビジョンは存在しない。
智代の強い意志を感じ取って、鰐淵は口の端を吊り上げてから言葉を紡いだ。
「坂上智代。昔、伝説の不良として近隣の不良達を恐れさせた存在……実力は噂通り……全く鈍ってないようだ」
体育館の外で倒した男達のことを言っているのだと判断し、智代は言い放った。
「……私の力を試したかったのなら、もう十分だろう? 鷹文を返せ!」
「過去は、過去として終わらせておけば良かったんだ。お前が俺を刺激した」
鰐淵は淡々と言葉を返し、取り囲んでいる男達に身振りだけで離れるように指示する。
体育館の床に目印は何も無かったが、男達が二人の周囲を取り囲むことでリングができあがった。
「どういうつもりだ?」
智代は眼光を鰐淵へと突きつけるが、答えたのは周囲を取り囲む男達の誰かだった。
「お前。一週間前にうちのもんを痛めつけただろう!? 女にコケにされたそいつは組でケジメをつけたが……鰐淵さんはお前の力を直々に試したくなったんだとよ!」
「そうだ! もう終わりだぜ! てめえなんて――」
「黙れ」
智代へと必要以上の暴言を吐く前に、鰐淵は一言だけで男を黙らせていた。
地の底から足を伝って脳を貫いてくる声音に、智代は身震いして胸元が弾む。無意識に止めていた呼吸を再開した智代は、いつでも身構えられるように全身に気迫を漲らせる。
鰐淵も僅かにネクタイの結び目を緩めて、ワイシャツの第一ボタンを外して首を楽にした。だが、それ以上のことはせずに上着を着たままで智代の傍に近付いていく。
鰐淵から視線を外さないまま、周囲から投げつけられた言葉を受け止めて智代は考える。
『一週間前』『痛めつけた』というキーワードから思い浮かぶのは、ヤクザに絡まれていた同級生を助けた光景だった。
街中で運悪くヤクザに絡まれた同級生を見かねて口を出し、逆ギレ気味に襲われたことで、智代は蹴りを一発喰らわせただけで撃退した。同級生には畏怖の目で見られたものの、感謝もされて気恥ずかしいまま帰ったことを思い出す。
あまりにも簡単に終わってしまった出来事で印象が薄かっただけに、智代は浮かんでくる怒りを抑えられなかった。
(そんなことで……私の力を試すだと? あまりにも馬鹿にしている……鷹文まで巻き込むなんて……)
中学時代、蹴り技を武器に伝説の不良として恐れられた坂上智代。
高校からはその世界から足を洗い、真面目に生きてきたつもりだった。
それでも不良達の中に智代の実力は知れ渡っており、今でも関連した厄介事に巻き込まれることもある。
しかし、純粋に力を測るためだけに呼び出されたという動機は初めてだった。
「……私が勝ったら、鷹文は返すんだな」
「お前が勝つことはない。俺が、お前の限界を試すだけだ」
「質問に答えろ!」
智代を求めていながらも、全く智代を見ていない鰐淵。
相手にされていない屈辱に、智代は感情を右足と共に鰐淵の鳩尾へと叩き込んでいた。
(手応えあった――え?)
智代は蹴り足を引いて鰐淵から距離を取る。
多くの敵を蹴り倒してきた体の感覚を信じるならば、今の蹴りは会心の一撃に近い。
だが、鰐淵は蹴りの衝撃で僅かに腰を曲げたこと以外は、体勢を崩していなかった。
俯いていた顔を上げ、智代を見てにやつく鰐淵。
その瞬間に、智代は背筋に悪寒が迸って体を震わせていた。
これまで蹴り倒してきた不良や、一週間前に倒したヤクザの構成員とは全く違う。
足裏から伝わってきた感触は、確かに人間の肉を蹴っているはずなのにさらに固い何かを蹴っているようだった。
「どうした?」
「……これならどうだ!」
内心の動揺を悟られないように、智代は吼える。
真正面を向いて智代の攻撃を受け止めようとしている鰐淵に突進した智代は、懐に素早く入り込むと右足で蹴りつける。
(一発で駄目なら……何発も入れる!)
一発入れた後で力を込めるために戻す動作も最小限にし、再び右足は鰐淵の腹部に入る。繰り返される蹴りはやがて弾幕となり、巨体が僅かではあるが後ずさっていった。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!?」
呼吸を止め、無酸素運動を十秒以上続ける智代。
蹴り足はさらに加速して、鰐淵の体に十発、二十発と足跡を刻んでいく。
コンボが繋がる度に蹴りの威力は増していき、最後の一撃は鰐淵の足裏を一メートルほど床から後退させていた。
「ボス!?」
周囲で闘いを見守っている構成員達が叫ぶ。
だが、智代が着地して体勢を立て直す前にはもう、鰐淵は立ち上がっていた。
「……はあっ……はあっ! はっ! はあっ! はあっ……ふ……はあ……はあ……」
悪寒を振り払って全力を持って蹴りつけた智代は、体力をかなり消費したことで息を切らせる。しかし、鰐淵は胸元から腹をさするだけで不敵に笑っているだけ。
智代は後ずさり、構えも中途半端に鰐淵の動きを見失わないように視界に収める。
根源的な恐怖をくすぐる敵の笑みは、智代の攻撃が全く効いていないことを如実に伝えていた。
(な、んだと……!?)
激しく動いたことで汗が滲む。だが、額から流れ落ちる汗は体から滲み出すものと異なって冷たくなっていた。
「この程度か?」
鰐淵は闘いの最中だというのにスーツ下のポケットへ両手を入れて、智代を見る。圧倒的に有利であることを周囲に見せつけている行為に対して、智代は内心の動揺を悟られないように歯を食いしばる。
「まだ……まだまだぁああああ!」
智代は三度目の特攻を仕掛ける。
向けられる気迫に両手をポケットから出した鰐淵は顔面へと放たれた蹴りを腕でガードし、すぐにもう一方の手で掴もうとした。だが、智代の体裁きのほうが素早く足を取られる前に次の攻撃が放たれる。
一点に集中した前回と異なり、三度目はいろんな位置に蹴りを散らして当てていた。
小さな竜巻が起こったように風が吹き、空気中を斬り裂く音が周囲にも届く。
「蹴りが速すぎて見えねえ……」
「マジかよ……あの人が防戦一方だ」
「あの女、化け物か」
離れて闘いを見ているヤクザ達には何が起こっているのか分からない。
周囲を置き去りにして、智代は高速の体捌きを持って蹴りを撃ち続ける。
しかし、狼狽えてざわつくヤクザ達にも、間断なく肉体を蹴りつける音にも智代は全く安心できなかった。
攻撃速度は上がっている。鰐淵の耐久力は自分と比較すれば比べものにならないほど高いということも、身をもって理解した。
だからこそ手数を増やし、かつクリティカルな一撃を叩き込むために攻撃を分散させていたのだ。
攻撃を耐えて留まっている相手の急所を撃ち抜いて気絶させる。
それは、体格も実力も差がある相手と闘わなければいけない時には必要なこと。
しかし――
「あっぐっ!?」
足を振り切って放った蹴りが鰐淵の脇腹に食い込んだところで、苦鳴を上げたのは智代だった。
暴風のように叩きつけていた蹴りが急に止まると後方へとよろめく。ニーソックスに包まれた両足は、智代の体重を支えるだけでも苦しいというようにガクガクと激しく揺れて、今にも倒れそうになっていた。
ヤクザ達は何が起こったのか理解できていない。目にも止まらぬ蹴り技で自分達のボスを倒そうとしていた智代が、勝手にダメージを受けてよろめいているようにしか見えていない。
「あっく……ぁあああああ!」
痛みに眉をひそめてもなお、智代は左足で床をしっかり踏み込んで蹴りを放った。
だが、ヤクザ達を感嘆させた速度は出ずに、鰐淵も速度に合わせてこれまでの攻防の種明かしをしていた。
スカートから伸びた太股に対して、鰐淵は右拳をカウンターで合わせる。
固い脛ではなく、鍛えられてはいても弾力のある太股へと直接拳を叩き込まれた智代は踏みとどまることができずに吹き飛ばされ、床を転がっていった。
「きゃああああああっ!? あっく!?」
男達は転がってきた智代を避け、まるで海が割れていくように道を作る。智代は殴り飛ばされた勢いをそのままに、壁際に積み上げられていた木箱へとぶつかって動きを止めた。
背中からぶつかったことで激痛に呻きながらも、すぐに智代は立ち上がろうとする。しかし、下半身には力が入らず、上半身を腕で持ち上げたものの、そこが限界だった。
「がはっ……げほっ! げほっげほっ! ごほっ……かふっ……ぁ……」
衝撃による咳がおさまってくると周りが見えるようになる。
そして、智代は男達の視線が自分の顔――ではなく下半身に注がれていることに気づいた。
「……? あっ!?」
智代は視線を追って自分の下半身へ視線を移した。視線の先ではチェックのスカートがめくり上がり、右足の太股が大きく露出していた。もう少しまくれればショーツまで見えてしまう。
慌てて右手でスカートを押さえると、男達は残念そうにため息を吐いた。
(……く……っ……なんて、重たい攻撃なんだ……受けてしまえば……押し切られる……)
智代は先ほど撃ち抜かれた太股の痛みを堪えて立ち上がる。
ふらつく体を押さえるために、脇腹をしっかりと締めて両腕を掲げた。
両足は右足を後ろへと下げて、アキレス腱を伸ばすように身構える。
コンパクトな構えにした分だけ重心が安定し、智代は倒れることのないままに鰐淵へと向き合った。
「どうした? もっとこっちにこい」
「…………」
智代は構えを解かないまま、鰐淵の言葉に従うようにすり足で前に出る。速度が出ないのは構えのせいではなく、体に蓄積したダメージのせいだった。
智代の蹴りは全て拳で打たれ、なぎ払われ、いなされていた。
代わりに次々と拳を撃ち込まれて、最後には太股まで岩のような拳がめり込む。
速度では完全に勝っている智代に、鰐淵は完璧にカウンターを返していた。
「不思議そうな顔しているな。スピードはあってもしょせんは女だ。威力がない」
鰐淵の言葉に智代は息を呑む。
自分の最大にして唯一の武器は並の男なら一撃で沈黙させる蹴りと、目にもとまらぬ速さで撃ちこめるスピードだ。
一発でもクリーンヒットすればそれだけで勝てる。もし蹴りを恐れて守勢に回っても手数で圧倒することができた。
しかし、鰐淵は智代の蹴りを「威力がない」と切り捨てた。
智代の蹴りなど気にも留めずに余裕をもって攻撃を捌き、ガードすると見せかけて足の弱い部分に拳をぶつけていたのだ。
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(こんなヤツ……一体どう戦ったらいい……?)下半身から伝わる鈍痛に冷や汗が額を流れ落ちて眉間に皺が寄せられる。
体力も戦術もはるかに自分を凌駕している相手がすぐ傍まで近づいてきている。生まれて初めて感じる切迫の中、ただでさえ巨漢の相手が更に大きくなっていくような感覚に襲われた。
「――――!!」
たった一歩、鰐淵が踏みしめただけで智代は亀のように背中を丸めて後退していた。
「ふんっ……なんだその様は。お前の弟が悲しむぞ。せっかく観戦しているのにな」
「……なん、で……? 鷹文が! やはりいるのか! ここに!」
智代は構えることは忘れずに顔だけ周囲を見回す。
しかし、鷹文の姿はなく、智代を見てにやついている男達だけ。
その答えはすぐに鰐淵から告げられた。
「弟は今、この戦いを観ている。それで十分だろう?」
顎で示された先を見ると、隅の柱に設置されたカメラが正面から智代の顔を捉えていた。
(防犯カメラ……? いや、あれはもっと高性能なもの。あれで戦いを中継している……のか……?)
カメラレンズの先に鷹文がいる。近づいたと思えば遠くなる歯がゆさに、智代は一瞬だけ意識を鰐淵から外していた。しかし、実力者相手にその一瞬は命取りとなる。
「オイ」
「……っ!?」
カメラを凝視していた視界に飛び込んできた巨体に驚いた智代は、小動物のように大きく後ろへ飛び退いた。慌ててファイティングポーズを取るのと、鰐淵が間合いを詰めて拳を突き出してくるのはほぼ同時。
(速い!!)
軸が不安定な体では、連続して放たれる豪拳をすべて捌くのは不可能だった。
「あああっ!?」
やむを得ず両腕で防いだ拳の威力に体が吹き飛ばされる。
致命打は回避できたものの、智代は冷たい床を再び転がることになった。
距離が離れたことで鰐淵の追撃は止まり、智代は乱れた服もそのままに震えながら立ち上がったが、取り乱した彼女の姿を鰐淵はあえて何もしないまま悠然と見物していた。
(クソ……完全に遊ばれている……)
冷気をまとうような鰐淵の視線と交錯すると、悔しさよりも畏怖する思いがこみ上げ、無意識のうちに後ずさって距離が開いていった。
(鷹文はきっとモニターがある部屋に捕まっているはず……体育館か、校舎か……。こんなバケモノと闘うよりも鷹文を探すべきなんじゃ……)
じりじりと後退しながら中継カメラや体育館の出入口を確認する智代は、正面にいる鰐淵にも十分警戒していた。
圧倒的な敵と、鷹文の存在。
二つの存在感があまりにも大きすぎて、智代は残ったもの――肉の壁をすっかり忘れていた。
「――きゃあああっ!!」
意識の外から背中を蹴り飛ばされて、智代は鰐淵へと土下座するように膝と両手を床に着く格好になった。すぐ背後を振り向くと、足を下ろそうとしている男がにやついたまま立っていた。
「へっへっへっへ……今さら怖気づいて逃げようったってそうはいかねぇぜ!」
得意げに笑って見下ろしている男を見上げた智代は、自分が何を言われたのか遅れて理解した。
(逃げる……私が? 逃げるだって?)
背中を蹴られたダメージよりも、はるかに重い何かが智代に圧し掛かった。
重たい上半身をしっかりと支えて足を立てる。視線は既に鰐淵へと戻していた。
(……そうだ。私がこの状況でここから離れれば、見捨てて逃げ出したと鷹文に思われてしまう)
自分に圧し掛かるものの正体は分かっていても言葉にはしない。
不安に押し潰されそうになっている今の鷹文に【弱い姉】を見せるわけにはいかないという気持ちが智代を突き動かす。
(……許されない……許すわけには、いかない!)
揺らいだ闘志が元に戻ったことを感じ取ったのか、鰐淵は智代へと近付いていく。
「体が温まってきたからな……ギアを上げるぞ!」
言葉通りに、これまでよりも上がった速度に自分の力を乗せて智代へと拳を振り下ろしていた。
「……っ!?」
連続して叩き込まれる拳を智代は躱そうとするが、体がふらついてつまずいてしまう。前に倒れる動きに逆らわずに前転して距離を取り、すぐに上体を起こして鰐淵を睨みつけると、満面の笑みを浮かべて智代への追撃を放ってきた。
(鷹文が本当に見ているなら……無様なことはできない!)
智代は立ち上がり、拳を躱そうと右足に力を込める。
だが、倒された時に叩きつけられた拳による痛みが全身を覆い、その場から動けなくなった。
「くっはっ……あ゛っ!?」
「フンッ!!!!」
裂帛の気合いと共に突き出される豪拳。
智代は動けないために受けることへと瞬時に意識を集中し、腰を落として身構える。
そして、脇腹をガードするように置いた右腕へと左拳が突き刺さった。
「がっ……あ゛!」
腰を落として重心を下にし、その場から吹き飛ばされないように両足を踏ん張る智代。
思うように動けない今、何度も倒されるよりもその場で耐える方を選ぶ。
賢い選択とは言えなかったが、智代は目の前の強大な敵から逃げることを考えたくはなかった。
真っ向から拳を受け止めた上で、逆転の手を狙う。その隙を探すために、攻撃を受け続けながらもその場からほとんど動かずに鰐淵を睨み続ける。
「ぎっ!? ぐふっ! いうぐっ! ぐっあっ! がはっ! ん……んぐぐっ……ぐぶっ……!?」
鰐淵は他にも攻撃する手段があるにも関わらず、智代の両腕へと二つの拳を打ち続ける。
石のように固い拳がめり込む度に骨が軋み、肉がひしゃげて骨を突き破るような錯覚を生む。
智代と同じように無酸素運動による拳の乱打。
しかし、鰐淵には隙らしい隙が生まれていなかった。
(なん……なんだこいつは……! 攻撃が……終わらない! これじゃあ、腕が完全に……!!!?)
足を痛めつけられたことで機動力が失われた今、その場で耐え続ければ攻撃の切れ目があると考えたことが完全に裏目に出てしまった。
腕から感覚がなくなるまでもう時間が無い。
体の限界を見極めた智代は、激痛によって今にも気を失いそうになる自分を奮い立たせるために唇を噛んだ。
肉が切れて血の味が口内に染みこんでくる。
その苦みがダメージの蓄積で薄れていく意識を繋ぎ止めた。
「こ……のぉおおおおおおおお!」
一瞬だけ両足に力を込めて、前のめりになるように飛び出すと、鰐淵の右拳が空を切る。
これまでただのサンドバッグと化していた智代が動いたため、目測を誤った結果だ。
自ら作り出した隙をもって智代は鰐淵の懐に飛び込み、自分の全力を込めた蹴りを放とうと息を止め、右足を上げようとした。
その瞬間。
時間が止まった世界の中で、智代は見ていた。
鰐淵の顔がこれまでの攻防の中で最もゲスの笑みを浮かべていたことを。
残っていた左拳が固められて、蹴りを放とうと上体を伸ばした智代の鳩尾へと吸い込まれていく様子を。
(躱せな――)
背筋を伸ばそうとしたタイミングで鳩尾へとめり込んだ左拳からの衝撃は、背中まで易々と貫かれる。
自分の体が壊れていく音を聞きながら智代は呼吸をしようとするも、横隔膜が動かないために酸素を取り込めない。
左拳がゆっくりと智代の腹から抜かれると、スローモーションのようにゆっくりとその場に膝をついた。
「う……げっ……げえっ! おげええっ!?」
止まっていた時間が動き出したかのように胃の内容物が逆流して、智代の口から吐き出される。
顔には脂汗が浮かび、口元は自分の胃液や消化しきれていなかった食べ物の名残がボタボタと崩れ落ちた。
自分の吐瀉物へと顔を埋めないように右手を前に突き、左手は腹部を押さえて痛みを堪えるために無防備な姿を鰐淵の前に晒す智代。
自分が狙っていた隙を、自ら見せてしまう皮肉にも思考は回らない。
早く立ち上がらなければ攻撃が来ると分かっていても、息がほとんど出来ない苦しさに体は動かない。
待っているのはさらなる絶望。
視界の片隅で鰐淵の右足がこちらに向かって振られたのが見える。
分かっていても何もできない。
乳房の谷間にめり込んだ硬い衝撃に、血と吐瀉物を空中にまき散らしながら吹っ飛んでいった。
「あ――ガッハアアッ!?」
腰が床にぶつかり、二度、三度と滑るように体が床に触れる。バウンドが終わると床を滑っていき、背中が摩擦で熱くなった。
ようやく止まったところで智代は再び咳込み、残った唾液や胃液を床に吐き出された。
「うげ……ほっ……あぐ……はぁ……ん……あ゛……はぅ……」
上半身を起こし、膝を床について立ち上がる。
気が遠くなりそうな意識を引き留めて、体を震わせながらも智代は背筋を伸ばした。
しかし、身構えようとしても両腕は痺れて上がらない。
両足も少しでも前に足を踏み出せば、床に倒れてしまうことが直感的に分かった。
(もう……戦えない……鷹文……くそ……こんな、ところで……)
近付いてくる鰐淵を睨みつけながら自分の無力さを自覚する。
それでも、鷹文が見ているという言葉を思い出せば気絶してしまいたい心を抑え込んで体は前に出た。
「ぁ……ああ……あっ!」
前に倒れそうな勢いを使って右足を振り抜く。力なく放たれた足は鰐淵の脇腹へと当たった。だが、これまで見せてきたような威力は無く、筋肉の鎧に跳ね返された。
鰐淵はふらつく智代の髪の毛を掴み、自分の元へと引き寄せる。
何十本も同時に髪の毛が頭皮から引き抜かれそうになる痛みに智代は呻き、両手で男の手をはずそうとした。
「あ゛……や゛……やめろ゛……あっぐうっ!?」
髪の毛を掴む指は離れることはなく、激痛を逸らすために智代はつま先立ちになった。
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「もう限界のようだな」「ぐっ……う……」
鰐淵は智代の額に自分のそれを当てて告げる。
タバコの煙が染みこんだ舌や歯から、智代の鼻の奥へと苦い臭いが漂ってきたことで、痛みにより涙を流しながらも智代は気丈に睨みつけた。
強い眼光を受けた鰐淵は頭を離して、勢いよく振り下ろした額を智代の額に激突させた。
「――――っっ!?」
瞬間、智代の頭の中で鐘が鳴り響いた。まるで鐘を突くかのように重たく、腹に響く音が額からつま先まで駆け巡る。
同時にそれまで保たれていた意識が粉々に砕かれ、頭の中で泥水のように撹拌される。眠気に耐える時のような吐き気がこみ上げてきて、先ほど傷ついた食道に再び負担を強いる。
だが、こみ上げる胃液は次の頭突きによって無理やり胃の中へと押し戻されていた。
「ごっ!?」
額の次は顔面。
鼻頭を一撃された智代は後方へと頭を振った。
首の据わっていない赤ん坊と同様に頭部が前後に激しく揺れる。なまじ鍛えられているだけに、首はそのまま折れてしまいそうな痛みを智代に与えた。
(なんなんだ……こんな……人間が……いるのか……?)
鰐淵も自ら頭突きをしている以上、反動で痛みがあるはず。
しかし、智代は全くその気配を感じとれない。比喩ではなく本当に脳が砕けるのではと不安で心が占められていく。
(私は……もう……駄目なのか……)
いつしか智代は、何度も頭部を前後に動かす自分を客観的に見ていた。
おそらく、鷹文も今どこかの部屋のモニター越しに自分の姿を見ているに違いない。
いつも凛々しく自分の前に立っていた姉が、男の暴力によって為す術もなく破壊されていく姿を。
(鷹……文…………)
痛みが、体の感覚が自分の意識から離れていく。
自分の把握しないところで顔は傷ついていき、涙と血が飛び散る。
鰐淵の一つの毛もない額から頭部にかけて、智代の流した鼻血がこびりついても、それが勲章であるかのように頭突きは繰り返された。
智代の体は顔面が額に陥没させられる度に反射で指先が仰け反る。
意識が体から離れ、痛みが遠くなり、心が死んでしまわないようにと体が防衛反応を取って感覚を遮断した。
(もう……駄目だ……鷹文、すまない……)
鷹文への謝罪がトリガーとなったのか、急に体に意識が戻る。
待っていたのは、鰐淵が智代の胸ぐらを掴み上げたことで喉が締め上げられる苦しみ。
責めが終わった顔面は額や目元に唇と頭突きの打撲痕を残し、鼻からは血が流れ出していて顎を伝って床へと落ちていた。
服の内側から突き出された胸元に血がこびりついていて、左腕一本で宙づりにされた智代は胸ぐらを捕まれたことで服がまくれ、臍が露出させた。
鰐淵は拳を一舐めすると、がら空きになった腹部へと握りこんだ拳を叩き込んだ。
「っげぼおっ!? ごぼっ!? オ゛ゴホオッ!?」
二発、三発と体をくの字に曲げても拳は止まらない。
四発目が入ると引き抜かれずに拳がねじられ、腹部の肉が巻き込まれた。
「この程度か」
「あぐっ!?」
外からの打突による痛みに『ねじり』が加わると肉がちぎられそうな痛みに智代は目を見開く。
その瞳の端には、腹部から離された右腕が自分の左腕に叩きつけられる光景だった。
「しょせん、女だ」
「がっはっ!?」
二の腕に直接叩きつけられた拳。その形に肉がへこみそうな一撃。
骨まで到達した衝撃は、折れはしないまでもダメージを蓄積させる。
倒れる前に攻撃を堪えてきた腕はさらに使い物にならなくなった。
「つまらん」
「いっ……がふっ!? あ……ああ……」
智代の胸ぐらを掴んだままで、鰐淵は次々と体に拳や蹴りを叩き込んでいく。
左腕。両足。脇腹に食い込む丸太のような手足によって智代の肉体は確実に壊される。
全身の骨にひびが入って、裂け目から生命力が零れ落ちていく。
「噴ッ!」
「きゃ……あ゛!」
とどめと言わんばかりに拳が突き込まれたのは乳房だった。
服越しに拳の形が刻まれる乳房。ブラジャーに包まれていようとも些末な守り。
だが、弾力を持って拳を返してきたことで鰐淵は埋め込んだ右拳を何度か開閉すると智代の乳房を鷲掴みにする。
「んんんっ!? うぐ……に……ぎる……な……ぐうう!?」
凄まじい握力は智代の乳房を体から引きちぎらんと指の力を強める。
殴られ、蹴られることとは異なる痛みに智代は呻き、乳房を掴む手に両手を添えた。
震えながらもささやかな抵抗を見せる智代に鰐淵はにやりと笑うと、これ見よがしに右腕を掲げてから右足を床に踏み込んだ。
「これで、終わりだ」
「ごっ――」
痛恨の一撃が腹部から背中へと貫いた時、智代の中に生まれたのは衣服が腹部から背中まで弾け飛ぶイメージだった。
腹部におさまっている器官が全て破壊されたと誤解した次の瞬間には、智代の意識は完全に喪失する。
智代が意識を失ったタイミングで鰐淵が胸ぐらを離したことで、智代の体は吹き飛んで床を転がった。
後転を何度か繰り返した後で仰向けに止まった智代は、僅かに体を痙攣させていたものの起き上がる様子はなかった。
鰐淵が近付いて見下ろすと、回転したことでまくり上がったスカートから中に穿いているショーツが見えていた。
シンプルな白い下着に可愛らしいリボンがアクセントとなっている。
無造作に広がった長い髪の毛の乱れ具合が彼女に対する暴行を物語っていて、涙と鼻血で汚れた顔が腫れ上がっている様と合わせて、智代がいかに蹂躙されたのか誰もが理解できた。
「……あっ! あのクソアマ倒されてやがる!」
「さすがボスですね!」
闘いとも呼べない、圧倒的な蹂躙劇が終わった場所に扉を開けて飛び込んできたのは、表で智代に倒されたヤクザ達だった。十人の誰もがふらつき、顔を歪めながらも智代に近付いていく。
その目には復讐の炎が宿っており、気絶して何も抵抗を見せない智代に対して欲情していた。
「……こんな女に舐められるお前等は後で鍛え直してやる」
「ひっ!?」
鰐淵が放った殺気に怯える男達。
しかし、鰐淵はすぐに怒気を収めるとスーツのポケットから煙草とマッチを取り出し、智代から離れた。
「俺の用事は済んだ。お前達。好きに楽しんでいいぞ」
鰐淵は床にマッチの先を擦りつけて火を灯し、煙草を吸い始める。
煙草の煙を背に鰐淵が部下達の輪から離れると、智代にはプライドを傷つけられた男達が殺到した。
最初に智代の周りを取り囲んだのは、倉庫に入る前に叩きのめされた男達十人。
足技使いの智代がスカートの中を見せないほどの動きで瞬殺した男達は一様に蹴り倒された怒りを額に青筋として浮かべている。
ぎらつかせた瞳は智代の体を視姦していく。
仰向けに倒れてもなお豊満な乳房は形を失わない。
さらに、男達が自力で見ることの叶わなかったスカートの中身は、女性らしい丸みを帯びた腰から尻、足へのラインと続いていく。
身を包んでいたスーツを脱ぎ捨てて全裸になった男達は、次は智代の肌を見るために脱がせていく。
「――――っ」
スカートに手がかけられ、上着もまくられてブラジャーまで露出する。
背筋を仰け反らされることで僅かに呼気が漏れるものの、智代が起きる気配はない。
男達は一度智代から離れると各々でスマートフォンを使い、写真を撮り始めた。中にはムービーで録画し、これから始まる輪姦劇を記録しようとする者もいる。
紺色のニーソックスに白いショーツ。
何発も拳や蹴りが入って痣が出来た腹部。
ブラジャーが露わになるまでめくられた服。
一枚絵としても十分に男達の性欲を引き出すが、一人が前に出て智代のショーツを勢いよく脱がすと、男達は感嘆の声を漏らした。
陰部の陰毛は綺麗に手入れされていて、むだ毛はない。
はっきりと目に映る縦筋も綺麗な肌色を保っていたが、これまで闘ってきた影響からか汗臭さが漂う。
美少女の股間から流れる臭いに、ショーツを脱がしきった男は口を付けると舐め始めた。
「……んっ……んんっ……ぅ……うう……」
膣口を下から上と舐め回すと体が快感を覚えたのか、智代は眉をひそめて声が出る。気絶してもなお反応する様から感度を確認した後で、男は智代の体をひっくり返して尻の側に移動した。
「ヘッヘッヘ……たまんねぇ……」
すでに股間からは黒々としたペニスがそそり立っている。
ピンク色の輝いた肉が見える膣と異なり、何度も使い古された肉棒は黒く汚れている。
男は智代の腰を持って引き上げると、背後から膣口へと先を付けた。
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正確に穴を探り当てた男はゆっくりと膣口へと分身を挿入していく。狭い通路を力づくで左右に広げていくと智代の下腹部も痛みが増していき、やがて処女膜も簡単に破られてしまった。
「あ゛……あ゛あ゛……がっ……きゃああああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!?」
完全な闇から一気に現実へと引き戻された智代は、絶叫した後でもすぐには起こったのか理解できなかった。
下半身や胸元までがやけに涼しく、かつ下腹部に異物が挿入されている圧迫感がある。その感覚に顔を赤く染めて背後を見ると、全裸の男が智代の尻を掴み、尻肉と臀部がぶつかっていた。
post #2731652「なっ――や……やめろ! 止めろ! 抜けえ!」
「はっ! さっきまで気絶してたのに元気じゃねぇか!」
気絶といえども身体を休ませることになったのか、怠さは残っていても声は出た。
自分の体勢を遅れて理解した智代は、下腹部の痛みから男の肉棒が突き込まれている事も理解してしまう。
スカートも下着も脱がされて四つん這いになっている自分を想像すると恥ずかしさと屈辱で胸が締めつけられた。
智代の想いは余所に、背後の男は腰を動かして抽送を始める。
「うぐっ! ぎっ! ぎひっ! がっはっ! や……やめろ! 動かすな! やめろお!」
「まだそんな口をきく元気があるのか! とんだじゃじゃ馬だなぁおい!」
男は腰を振ったままで智代の尻を叩き始める。
パァン! と乾いた音を倉庫内に響かせる尻太鼓。
衝撃に肉が震えて体内に伝搬していくと、智代は堪えられずに悲鳴を上げてしまう。
「ぎゃんっ!? あっ! あああっ! ヤアッ!? やっ……めっ……ああああっ!」
「ヒャッハー! このじゃじゃ馬、乗り心地は最高だぜ!」
尻肉を叩かれる度に体は硬直し、ペニスを咥えこんでいる膣も締めつける。
智代の意思を無視して体をむさぼり続ける男は、尻太鼓の速度を上げると共に抽送も早めていった。
圧迫が強まることで肉棒から快感を引き出され、男は智代の膣内をさらに堪能する。腰の動きが速まると膣内により強い摩擦が生じ、痛みも伴った上でジンジンと痺れ、熱くなっていった。
「あっぐっ……うぐっ……くぅ……んんんっんっんっんっ……うっふぅ……はくっ……」
智代は顔を上げるのも疲れて、肘まで腕を床につけたまま俯く。
前方に流れた長い髪の毛は、背後から揺さぶられることで、まるで水面に揺らめいているようだった。
(痛い……苦しい……何も……できないなんて……悔しい……!!)
ほとんど力が入らず、背後からペニスを挿入している男を攻撃する体力も無い。背後からの突きは尻から背中まで振動を通し、最後には乳房を揺さぶる。
四つん這いの体勢で重力に引っ張られる豊乳がぷるんぷるんと震える様は、次に控える男達の股間も熱くする。
「しゃあ! まずは一発出してやるぜ!」
周囲からの熱が高まっていくと共に、膣内を味わっている男はまず自分の番を終わらせることにした。
それまで叩き続けていた尻を再度掴んだ男は、指先が食い込むほど力を込めた後で腰の動きを速める。
高速で動き続ける腰から膣に擦りつけられる裏筋によって、智代は呼吸を止めなければ激痛に流されてしまいそうになった。
「うっ……ぐっ……ああああっ! やめろ! ま、さか……出すのは……出すのは止めろ! やっめ……ろおお!」
「そんなことできるわけねぇだろ! ギャハハハハハハ!」
智代が嫌がる様を見て興奮したからか、ペニスは更に大きくなって膣内を埋める。大きくなる下半身の痺れに智代は悶え、衝撃に堪えるようにして額を床へと付けた。
「あっあっあっあっあっあっあっあっ……っ……やっあっ!?」
肉棒が膣の奥まで到達するのと、膣内へとドロついた液体が注ぎ込まれる感触が伝わってくる。
ペニスが脈動する度に精液で満たされていく内部。欲望の放出が全て終わった時には下腹部は僅かに膨らんでいた。
「ん゛ん゛ん゛……ぅ……ぐぷっ……はぁ……はぁ……はぁ……く……そお……」
男に犯されること。そして、膣内へと精液を注がれれば妊娠すること。
全て知識としては知っていたが、自分が経験することになるとは思っていなかった。しかし、現実に自分は敗れ、男達に弄ばれる。
性欲を満たすためだけの存在に貶められる屈辱に、智代の体は僅かに反応してしまった。
「く……ひゃひゃひゃ! 気持ちよかったぜぇ」
男がペニスを引き抜くと破瓜の血が精液と共に流れ落ちていく。
血と混ざり合ってピンク色になった精液が溜まり、生臭さが床へと広がっていく中で違う男達に仰向けにされた。
「うぐっ!? ぐっ……あ゛っ……!!」
抑え込んでくる男達に吼えようとすると腹部に痛みが走る。
何度も殴られたダメージが遅れてやってきて智代の言葉を奪った。その隙に別の男が智代の両足を掴むとそそり立つペニスを膣口へと押しつけ、めり込ませた。
「あ゛――ぎいい゛っ!?」
「うおお! 確かに具合いいぜ! こいつぁああ!」
根元まで一気に肉棒が挿入されたことで中に注がれていた白濁液が隙間から流れ出る。
二人目の挿入者は智代の乳房を掴んで強く握りしめながら、自らの腰を動かし始めた。乳房と膣という二ヶ所から襲ってくる痛みに、智代は頭を左右に振りながら絶叫した。
「こ、このおお゛! あぐああ! ぬ……けえ!」
下半身は一突きされる度に痺れて動かせない。
抑えられている二の腕も股間からの痺れのために頭の中に火花が散ると、拳を握ることを忘れてしまった。
「大人しくしろよなあ!」
「ぐううっ! は、なせ……!」
振り回していた両腕も頭上から男に捕まれて床に押しつけられる。
固い木材で出来た床は冷たく、背中と尻を押しつけてられている智代には肌寒い。身震いするのはそれだけではなく、上に覆い被さってくる男の体温が高いことも理由にあった。
(負けるか……こんなもの……こんな……一人じゃ何もできない奴等には負けない!)
鰐淵から受けた痛みに重ねて、膣への蹂躙が智代の体内まで傷つけられる。
痛みが体を固くしているせいで挿入している男には男根の締めつけが強くなり、二度目の射精はすぐにやってきた。
「ウアアアアアアアッ!?」
智代の意思など関係なく精液は膣内へ注がれる。
引き抜かれれば破瓜の血の他に、膣壁が傷つけられたことで流れた血と精液が混ざり合ったピンク色の液体が外に出る量を増やす。
腹部が膨らんでいき、圧迫されることで吐き気を抱いた智代は気持ち悪さを堪えるために呼吸をあえて荒くした。
喉を通ろうとする胃の内容物を呼吸の流れが妨げている間に、三人目のペニスが膣に埋め込まれる。
過去二回と比べて確実にスムーズな動きで挿入されたペニスは長く、子宮口まで届いた。
「が……アウアアアア……ごぼっ!? ごほっ! おぅ……がふっ……」
二人よりも長いペニスで子宮口を叩いた男は、結合したままで智代の体を反転させると再び背後から突き始める。最初の四つん這いと異なるのは、智代の両腕を捕らえて背後に引っ張り、その肢体を持ち上げて男達に晒したことだった。
「くっ……うぐ……ぐぐぐ……う゛う゛う゛う゛!!」
背後から突き込まれると同時に両腕を引っ張られることで、胸を張ってしまう智代。激しく腰が突き込まれるとそれに応じて乳房もたゆみ、男達の目を癒やしていく。
膝立ちの体勢にさせられた智代の膣からは、これまで注ぎ込まれた精液を垂れ流される。三人目が突き込みながら流しているスペルマ流れ出した。破瓜の血も全て体外に排出され、膣壁が傷ついたことも昔のこと。
今や、ペニスを荒々しく突き込んでも智代の体は抽送の勢いに揺さぶられるだけ。
「――アウアッ!?」
三人目も予定調和のように智代の膣内へと精液を出す。
ただし、今回はこれまでと異なっていた。
子宮口の奥までめり込んだペニスは、子宮内へと直接白濁液を注いだ。
下腹のさらに奥へ液体がたまる感触に、智代は声を上げることも出来ずに固まった。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……カハッ……アッ……」
口を限界まで開き、白目を剥いている智代は口から泡を吹いていた。
三度目の放出は子宮の中へとたっぷり注がれて、ペニスに沿って膣口の外へと流れ落ちていく。
仰け反らされた智代は両腕を解放されると、床に顔面から叩きつけられた。
「か……はっ……ぅ……あ……」
休みなく三人の精を受け入れた智代は、脱力して肩で息をする。男が女と繋がる時の快感などあるわけがなく、ひたすら肉棒を無理やり挿入されただけ。痺れて動かない下半身から伝わる痛みはつけられた傷口に塩を塗り込められるような鈍痛を伝えてくる。
しかし、額が床に触れる感触が冷たく、股間を蹂躙されて熱くなっている頭をわずかながら冷ましていた。
(……こんなことで……負けるか……お前達になんか……負けてはいないんだ……!!)
一度去った嵐が再び始まることを告げるために、顔を突っ伏して倒れたままの智代の髪を男が掴み、持ち上げていた。
既に裸体を晒して智代を犯す四人目となる準備は万端だったが、上半身だけ僅かに引き上げられた智代は鼻から流れた血を一舐めすると、髪の毛を掴んで持ち上げていた男の顔に唾と共に吐きかけた。
「ちっ!? このアマっ!」
唾を吐きかけられた男は一瞬で怒りに頭が沸騰し、拳を放つ。
智代は顔面を殴りつけられるも顔を戻し、睨みつける。
「……はぁ……はあ……絶対に……許さないぞ……お前……達……」
頬に痣を浮かべ、息も絶え絶えながらも智代は全く怯んではいなかった。
連続して膣内へと射精されて無抵抗になった女。
しかし、智代の顔が向いていた側にいた男達は、まだ眼光が死んでいない智代の瞳を見ていた。
けして負け惜しみではなく、強い意志で自分達に屈していない智代に、男は再度拳を振り上げる。
だが、その手は巨大な掌によって止められていた。
「止めろ。見苦しいだけだ」
それだけの言葉で殴りつけようとした男だけではなく、これから智代を陵辱しようと服を脱ぎかけていた者達まで黙らせたのは鰐淵だった。
咥えていた煙草を床へと落とし、踏みにじるとスーツの上着を脱ぎすてて部下へと持たせるために投げ捨てる。
露わになった白いシャツには、智代が蹴りつけたことで出来た皺がいくつも見える。
しかし、鰐淵がボタンを一つずつ外して肉体が見え始めると、智代は目を見開いた。
novel/8155212 page 8 (end)
(なん……だ……あの……体は……)シャツの隙間から見えた鰐淵の体は、この状況でなければ惚れ惚れするほどの肉体だった。
周りにいる男達と比べて数倍に膨れ上がっている筋肉。
それでいて鈍重さは全く感じない。
六つに割れた腹に、熱い胸板。
ボタンを全て外してシャツを脱げば、筋肉の筋がいくつも走った太い腕が露わになる。
(傷……ひとつ……ついてないなんて……)
鰐淵の体に自分が蹴りつけたことによる傷は見当たらなかった。
生物的な特徴のある巨岩とでもいうような体の表面のどこを探しても、蹴りによる内出血は見えない。
視線が上半身に集中していることを知ってかしらずか、鰐淵は平然とスーツの下を脱いでボクサーブリーフ一枚になる。
上半身と同じくらい下半身も蹴りつけたはずだったが、皮からはち切れそうなほど膨らんでいる発達した太腿にも傷はない。
鰐淵は脱ぎながら敗北者達へと語っていく。
「いいかテメェら。ヤクザってのはなぁ……たとえ力でねじ伏せても相手がビビらなきゃ、負けたも同然なんだよ」
最後に残った一枚も鰐淵はあっさりと脱ぎ捨てて、遂にその肢体を全て智代へと見せつけた。そして、続く言葉は智代へと向ける。
「俺の部下は、またお前に負かされた。だから、この落とし前は俺がつける」
存在感は巨体だけではなく、股間から生えたイチモツもこれまで受け入れたペニスの二倍は太い。脈動し、熱を放つ鰐淵の分身を含めて体を見せつけられた智代は頭からバケツに満たされた冷や水をかけられたような心地になった。
(化け……物……本物の……こんなやつに……勝てるわけが、ない……)
鰐淵の肉体には自分の攻撃など無意味だったのだと見せつけられると、頭が回る程度に温度が下がった脳が、一瞬で真っ白になるまで冷えていく。
生まれたままの姿になった鰐淵は、顔を青ざめさせる智代に近づいて抱き起こすと、あぐらをかいて座り込んだ。
「――くあっ!? ぁ……や、やめろ! ひいっ!?」
心を締めつけられて萎んでしまった気持ちを奮い立とうとした智代だったが、尻と男の腹部の間に挟まったイチモツの感触によって気勢を削がれる。
見えない男根の巨大さを智代も認識してしまった。
さらに座らされたことで、改めて自分を見下ろした智代は膣から床へと流れ出す精液の量に顔をしかめる。まだ突き込まれた膣口は痛みが走っている中で、これまでよりさらに太い棒を入れられるという現実は、智代の口から強気な言葉を全て奪い去った。
「あ……ああっ……や……やめ……そんな……はいら……はいらない……」
想像が暴走し、これまでの精液の注入は全て鰐淵のペニスを入れるためだけにあったのではないかとさえ考えてしまう。それほどの存在感は、大量の液体がなければ膣が裂けてしまうのではないかと智代に思わせた。
「む……無理だ……こわ、こわ……れ……る……」
歯をガチガチと震わせ、涙に濡れる智代の声を右から左に聞き流し、鰐淵は智代の尻を二本の腕で掴み、腕力だけで持ち上げる。
同い年の少女と比べて体重はほとんど変わらないが、人として考えれば重たい。女体を少し腕の力を入れただけで持ち上げられる鰐淵の膂力に対して、背筋に悪寒が走った。
悪寒は恐れへと変化して智代の心を締めつける。真綿を締め上げるようにゆっくりと、確実に智代を苦しめていくのは鰐淵に抱く感情。
「恐れているな。俺を」
「そ……そんな……そんなこと……な……」
反論しようとしても智代の口は開かなかった。
口がわななき、喉が渇き、唾も出てこない。
心臓が激しく高鳴って周囲の音も聞こえなくなる。
ただ、感覚は鋭敏で、持ち上げられた下半身の谷間へとペニスの先が置かれたことに気づいて智代は反射的に肩をビクつかせて小さな悲鳴を上げてしまった。
「ぃや――」
「お前は、俺には勝てない」
呪いの言葉と共に、ドス黒い剛棒が智代の穴に突き刺さっていた。
「~~~~~~ッ!?」
穴に肉棒の先を入れてしまえば、何もしなくても奥まで突き刺さる。
肉棒の大きさに智代は目を見開き、体中の水分が瞳から流れ出すように思えるほど激しく涙を流す。
「――――ア゛ハア゛ッ!!!!」
極太のペニスを根元まで咥えこむと子宮口も貫いて先が最奥まで入り込む。
智代は止まっていた息がようやく回復して、浅いながらも小刻みに呼吸を再開した。
(痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い! 痛い! 壊れる! 壊れて……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!)
頭の中を占めた激痛によって智代は思考停止していた。背後から智代の様子を感じていた鰐淵は、隠れかけていたシャツをまくり上げて再び乳房を露出させる。
乳首を摘まむと後頭部で頭突きをするほど強く仰け反る智代を見て、感度の良さを感じながら右手をさらに下腹部へと進ませた。
「――――あっ!? ダッ、ダメッ!?」
激痛の中で唯一の救いであるかのように快楽を与えようとする鰐淵に、これまでより一オクターブ高い声を上げて智代は抵抗した。自分の右手で鰐淵の手を押さえ、左腕は掲げて背後へ裏拳を放っていた。
だが、左手は弱々しい上に届かずに左肩へと当たってしまう。
鰐淵は智代の左太股を左手で掴み、周囲に見えるように広げた。
「アウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛! 痛……やめっ……広げな……んあああああっ!?」
股を広げられることに意識を奪われれば、右手指が添えられたクリトリスがいじられる。痛みと、肉豆をいじることで生まれる感覚がブレンドされて、智代は瞼を開けていられなかった。
顔を真っ赤にして止めるように叫んでも、鰐淵は止めるはずもない。
クリトリスを力強くいじりながら、鰐淵は腰の力だけで智代の体を揺さぶり始めた。
「ウアアッ! ヤメてッ! ヤメッ! ンハアアっ! ダメッ! ヤメッ!?!? くるし……おかしく、おかしくなる! こんなこと……だ……ダメエエエッ! イヤアアアアアッッ!?」
それまで男勝りの言葉遣いだった智代から吐き出された女言葉。
頭を前後に振り乱しながら絶叫する自分自身が、心を破壊していった。
(駄目……ごめん……鷹文……私はもう……駄目……だめ……だ……め……)
股間についた肉芽への指の嵐。
摘ままれ、引っ張り上げられ、押し潰しそうなほど力を込められる。
抽送と同時にいじられていた体は、智代の意識が消えないようにガードをかける。膣の内側から愛液が流れ出すと、それまで注がれていた精液が滑るように流れ落ちていく。
上から下へと移動する際に勢いよくペニスは引き抜かれていて、さらに多くの精液を流した。部下達のザーメンにあぐらをかいた両足が汚れようとも気にすることなく、鰐淵は太股を掴んでいた事も利用して動きを速めた。
智代の反応はそこから一気に変わっていく。
「ウッ……アッアッアッ……フゥアアアッ!? はげ……激しい……や……も……やめて……いや……いやだ……や……あ……」
涙を流してしゃくり上げる自分も信じられなかった。
中学時代にすさんで、伝説の不良とまで呼ばれた時からこれまで。悲しかった時や感動した時に泣いた事はあっても、恐れによって泣くなどあり得なかった。
同年代や少し年上の男達も智代を恐れて近付かないか、侮った結果返り討ちに遭って大人しくなるかしかなかった。
(怖い……壊される……助けて……誰か……助けてくれ……!!)
しかし、今、自分を背後から苦しめている男は違う。
智代が人生で初めて出会った、自分より上位の雄。
人として圧倒的に上の存在と出会ったことで、智代の心は屈していく。鷹文を助ける姉として一人、強くあろうとした少女は今、自分ではどうにもできない敵を前に求める筈もなかった助けを、求めた。
「ほう……さらに滑りが良くなったぞ」
「アウアアアッ!? キャアアアウウウウアウアウウアッ! アアアアアアアアッ!!」
心が折れれば体も従い、服従の証として愛撫を受け入れていった。
鰐淵の言葉通りに膣の締めつけは変わらなかったが、滑りはよくなっていく。雑魚達が注いだ精液はほぼ外へと排出されたにもかかわらず、流れ出す液体の量は増え続けている。
それは膣内から分泌される智代自身の愛液。
圧倒的な『雄』に許しを請うために流す涙のように、大量に流れて結合部から噴き出した。
(ああ…こんな…… すご…い……き、気持ち…いい…っ…)
霞がかった頭の中で恐怖と絶望が快感にすり替わっていく。男に征服されることを体と心が受け入れようとしていた。
『勇気を持つんだ』
『私は強い』
弟の前で胸を張って言い放ったあの言葉が、あの絶対的な矜持が、自分からどんどん遠のいて消えていく。
「フアアアッ! アッ! アッ! アッ! イ……イク…………き……て……い……いやああ! やめて! こ、こわい…っ! もう動かさないで! イヤアアアアッ!?」
いやらしく嘲笑うヤクザ達の視線を集めながら、智代ははばかることもなく快感に悶え、鼻にかかった嬌声を殺伐とした体育館内に反響させていた。
「限界…か?」
ぷっくりと膨れ上がった智代のクリトリスを大きな指の腹が強く掴む。
陰核から迸る衝撃に頭が縦に動く様は、鰐淵の質問に対する答えのようだった。
羞恥とこみ上げてくる快感に顔を真っ赤にして、体内で荒れ狂う感覚に耐えられず智代は瞼をきつく閉じた。
開かれっぱなしの口には、さっきまで出ていなかった唾液が粘ついて上下に橋を作った。
自由である両手は、今や鰐淵の体につけて倒れないように自分を支えるだけに使われる。
奥深く貫かれたままで腰から波打つように体を痙攣させた智代は、たっぷりと十秒以上使って絶頂の余韻を受け止めた。
「か……ハッ……ぁウ……ふ……ふ……う……ぁ……ああ……」
「派手にイッたな。だが、これで終わりじゃないぞ」
鰐淵は震える智代の揺さぶりを再開する。
智代の愛液を注がれた肉棒は膣の中を直前と同様に激しく動き出す。
一度達した体はすぐに快楽に包まれて、苦痛と快楽の間に心も体も堕ちていく。
(たかふみ……たかふみいいいい! ウアアアアアアアアアアアアアアアッッッ……)
智代の意識は徐々に消えていく。
脳裏に浮かぶ鷹文の笑顔も霞んで行く中で、智代は無意識に目の前へと手を伸ばす。
しかし、自分の腕すらも見えず、掴み損なったものが何なのかも忘れていくのだった。